信じたくなかった。美風が何を言ってるのか、美風がしていることを、強い眼差しが拳銃を持つ姿を。赤い酒がこぼれる床で、青い水槽で魚が泳ぐその横で、美風は見つめていた。その背中を覚えていた。もう二度と、傍からはなれないで。美風はきかない。だって、美風は自分が関係なく彼女の意思で動くからだ。ようやくわかる。美風は私たちの心配をしていたのだ。何度も言っていたけど、今のいままでわからなかった。彼女は、本当に、心配していた。私たちを見ても、何も言ってこなかったのはそのためだ。青白い水槽の光が眩しくて見えない。いつの間にか彼女の黒い後ろ姿も見失いそうだった。いつも隣にいたのに、この8年、ずっと一緒にいたのに。
「坂下」
名前を呼んだ。彼女は振り返った。でも返事はなかった。口は控えめにつぐんでわずかに眉間にしわが寄って、大きく開いた目に水槽の光と悲しみが覗いていた。ああこれは自分たちのせいだと、気付く。色の乗った唇が少し開いた。でも彼女が話す前に自分から動いた。一歩踏み出す時にもう一度名前を呼んだ。美風は「私ですか」と言った。
「どうしてここにいらっしゃるのでしょう」
「二人から事件をきいてきた」
「そうですか。でも、それはあなたが扱うことではないと思いますが」
「勝手にしている。お前こそ、どうしてここへ」
「仕事をさぼって遊びに出ているのは申し訳ないと思います。しかし今はまあ、おあいこということでしょうか」
「そういうことを訊いているんじゃない」
「あなた方がよくここにいるから」
以前美風はここに来ていた。でもどうしてまた。普通に考えたらおかしいのだが、なんとなく予感はしていた。悪い予感だ。